— ラガード研究所-資料室-

サソリ座アンタレス -銀河鉄道の夜-より

銀河鉄道で書かれているサソリ座について、とても好きな文章です。

「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さんそう云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきのサソリがいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見つかって食べられそうになったんですって。サソリは一生けん命逃げて逃げたけどとうとういたちに押えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでサソリは溺れはじめたのよ。そのときサソリはそう云ってお祈りしたというの、
ああ、私はいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちに獲られようとした時はあんなに一生けん命逃げた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああ何にもあてにならない。どうして私は私のからだをだまっていたちにくれてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命を捨てずどうかこの次にはまことのみんなの幸(さいわい)のために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつかサソリはじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さん仰ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」
宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」より

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